子供に読ませたいお金の教科書
2010-04-08


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また、銀行・証券・保険・投資信託など、多岐のジャンルに渡る金融機関に身を置いた経験から、「ほとんどの商品は手数料が高く、リスク・リターンが割に合わない、個人にとっては損な商品」という結論に至っており、個人と売り手との間に大きな情報ギャップがあることに乗じて不利な金融商品を売ることに対しては、憤りに近い嫌悪感が全体を通じて伝わってくる。ここはご本人も認めているが、金融の専門家としてフリーで生計を立てている立場に取っては、ほとんどすべての金融商品を否定することは極めて不利なことであるが、それでもご自身の身入りよりも正しいことを発信することにこだわり続ける姿勢には、敬意を表する。

最後に、本書で一番「山崎節」を味わえると思った一節を紹介しよう。ひとつの理想的な金銭感覚の持ち主として、75歳のお母様について書かれた個所である。

「彼女は、どのくらい使うと無理で、さりとてこれ以上ケチになる必要もない、という勘所を感覚的に把握しているようなのだ。要は、事、お金に関する限り、私の母は、細かなやりくりを気にすることも、ましてファイナンシャルプランナーに相談することもなく、吸った息を吐くようにこれを使って生涯を終えそうなのだ。

彼女の場合、どうしても生活に必要なくらいの収入に事欠いたことはないという幸運はあったと思うが、たぶん、それ以上のぜいたくにかかわる欲求が自分の経済力に応じて伸縮的に発生するようになっていたのだろう。

性格の根源的な部分にある一種の臆病さが経済感覚に対して作用しているだろうと推測するが、結果的には、細かなお金の計算をほとんどすることなく、お金が足りなくなることも、大いに余ることもなく生涯を終えるのだとすると、これはお金との関係に関する限り、理想的な人生かも知れない。

もちろん、今後どんな事態があるのかは分からないが、今の時点では褒めておこう」

ここには生活者としての理想のお金との距離感を表現したマネーのプロとしての視点、一人の個人の特徴をあぶり出す観察力と表現力(自分の母親についてここまで鋭く分析できる人はどれくらいいるだろう!)があり、同時に、ちょっとすかして、クールに綴っているようでいて、お母様に対する敬意の念と深い愛情が感じられるのである。まさに、山崎節の真骨頂である。

同世代から若手のビジネスパーソンにはぜひ一読を勧めたいし、いつか子どもにもお金の勉強をさせるときがきたら、そのエッセンスはきちんと伝えたい内容である。

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